2年前の12月上旬、事故は起きた。
1件目の配達を終え、トラックに台車を収納し、ステップを踏んで降りようとしたら、そこにステップは無かった。気づいたら天を仰いでいた。左手首に全体重がかかったらしく酷く痛んだ。今日は物量が多い。どうする?
2件目、荷物は普通に持てる。大丈夫だ。
3件目に走っている最中、事務所の上司と話す。
俺「Aさん、骨折したら、荷物なんて持てないよね?」
Aさん「普通はそうだね。だから、打撲止まりなんじゃないかな?」
俺「そうだよね。」
同僚にも電話してみる。
同僚M「折れてるわけないじゃん。もー大げさなんだから。」
3件目。左手が利かない。左手首と右手で荷物を挟んで作業出来た。
左手はどんどん痛くなる。
10件目についた時、ついに荷物が持てなくなった。呆然としていると配送仲間が
「どうした?何かあったのか?」
俺は事情を話した。
「何だよ!水臭いな!俺が全部やってやるよ。」
そう言って、何から何までやってくれた。俺はコンビニに走って、袋いっぱいの飲み物を渡して、
「すまん!本当に助かった!」
そして、最後の店に向かっている時、ついにギアチェンジも出来なくなった。
仕方がないので、ハンドルも、ギアチェンジも全部右手でやった。その様子を見ていた配送仲間が、
「何やってんの?なんかおかしいよ。」
俺はまた事情を話した。
「何だよ!水臭いな!俺が全部やってやるよ。」
また同じ言葉を聞いた。でも、さっきのドライバーはあの店が最後だったからお願いした。でも、こいつはあと3件残ってる。
「いやいいよ、お前まだ残ってんだし。」
「だって、それじゃ出来ないでしょ。やるから大丈夫だって。」
そう言って、全部の作業をやってくれた。
俺は再度、コンビニに走って、袋いっぱいの飲み物を渡して、
「すまん!本当に助かった!」
そうして何とか全ての配達が終わった。事務所に報告する。
「何とか終わった。でも、車庫に納められないから、着いたら頼むね。」
車から降りて左手を見ると、大きく腫れあがっていた。骨折だった。
12月の運送会社は繁忙期だ。目が回るほど忙しい。そんな中のケガ。
普通なら大ヒンシュクだ。落ち込んでる俺に所長が言った。
「あのさ、今までWさんがどれだけ会社に貢献してきたと思ってんの?頼むからそんな顔しないで堂々としててよ。」
仲間たちも、責めるどころか
「よくその手で最後まで配りきったな!さすがWさん!」
「普通なら出来ないって。大丈夫、俺らがいくらでもカバーするからさ。」
って励ましてくれた。俺を悪くいう奴なんて一人もいなかった。
俺の仕事ぶりは間違ってなかったんだな。